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就活生・転職者のための、アニュアルレポート(統合報告書)を使った企業研究

今なぜ「働き方改革」なのか!?就活生や転職者にとっての働き方改革とは?

働き方改革の動きが広がっている。

 

かつては一部先進的な企業だけの関心ごとと見る向きも多かったが、今では大手企業から中小企業まで、そのすそ野は広がっている模様だ。

 

国会における激しい論争が示すように、働き方改革、労働環境の改善は、個別の企業ごとの課題でなく、もはや国全体に関わる課題になっている。

 

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今なぜ働き方改革なのでしょうか?

 

就活生や転職者にとって、企業が進める働き方改革の取り組みを、どのようにとらえ、どう向き合っていけばいいのでしょうか?

 

今回は、盛り上がりを見せる働き方改革について、取り上げてみたいと思います。

 

 

伊藤忠商事に見る、「生産性向上」への並々ならぬ意欲

 

働き方改革の模範的企業の筆頭は、大手総合商社の伊藤忠商事であろう。

 

日本政府がこの改革に本腰を入れる前から先進的な取り組みに着手し、多くのメディアの注目を集めることになった。

今日の日本における働き方改革のロールモデル的な存在とも言え、日本の働き方に一石を投じた功績は大きい。

 

伊藤忠は2013年度、働き方改革の一環として、早朝勤務を推奨する以下のような施策パッケージを導入した。

 

・深夜22時以降の勤務「禁止」
・20時以降勤務の「原則禁止」
・早朝勤務(5~8時)の推奨
・早朝勤務には深夜勤務と同様の割増賃金の支給
・8時前に始業した社員に対する朝食サービスの導入

https://www.itochu.co.jp/ja/csr/employee/safety/working_style/index.html

 

すなわち、早朝勤務の推奨・導入によって、20時以降の時間外勤務を極限まで減らすとともに、総労働時間を抑制する仕組みだ。

夜の残業で労働時間を増やすよりは、早朝の限られた時間に集中させることによって、総労働時間を抑える狙いだ。

 

朝方勤務による成果は以下の通りで、時間外勤務時間が減り、結果として電力使用などのコストの低減も図れている(統合レポート2017から引用)。

 

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伊藤忠商事株式会社 統合レポート2017 P48

 

統合レポートによれば、働き方改革は、「労働生産性の向上を競争力のカギと位置付けた」ことに端を発しているという。

2002年に民間企業として初めて専門組織によるキャリアカウンセリングを始めるなど、時代の一歩先を行く先駆的な働き方改革を意識的に実行してきた。

 

現在では、「健康力 商社No.1」を掲げ、社員の「健康力」増強によって、1人当たりの生産力向上をさらに推進しようとしている。

「一人当たりの生産性で他の商社を凌駕」することで、企業価値の向上につなげていくという。

 

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伊藤忠商事株式会社 統合レポート2017 P48

 

伊藤忠は勤務時間の抑制を図ることで、労働生産性の向上につなげられたのか。

同社は、単体の従業員数の推移と、連結純利益の推移を重ね合わせて、「大手総合商社最小の人数で、労働生産性は確実に向上」と強調している。

 

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伊藤忠商事株式会社 統合レポート2017 P49

 

伊藤忠は非資源、中国・東南アジアで強みを発揮するなど、過去最高益を叩き出し、収益面では順調そのものに見えるが、それで終わらず必死なのだ。

同社にとって働き方改革は「形」ではなく、経営課題の中心テーマにしながら労働生産性の向上を推進している。

総合商社間の激しいトップ争いもさることながら、グローバル競争時代の生き残りをかけて、労働生産性の向上を由々しき経営課題として全社をあげて取り組んでいる。

 

労働市場に向けたアピールとしての働き方改革

 

労働市場に対する企業からのアピールという側面もあるだろう。

 

労働需給がひっ迫する中、質の高い従業員の確保は持続的な成長に欠かすことができない死活問題だからだ。

 

従業員の採用や育成は、企業にとってはコスト増ともとらえることができる一方で、優秀な人材の存在は将来の成長の源泉であることも確かだ。

 

働き方改革には、そうした無形の資産に対する経営のコミットと言うべき意味が込められており、「投資の対象として経営資源を投じていきますよ」という経営の覚悟が見て取れる。

 

将来の持続的な成長に向けて、一時的なコスト増はやむを得ない。

それは十分承知の上で、人的資本の高度化に経営資源を投じて行くという覚悟に他ならない。

そうしないと、成長はおろか、生き残りが難しくなる。

働き方改革には、そうした意味合いが含まれていると言えるのではないだろうか。

 

働き方改革のアナウンスメント効果は偶然の産物ではなく、人材に対する経営のコミットメントであり、労働市場への差別化戦略とも言える。

 

ここまでのまとめ

 

就活や転職に当たっては、企業研究の一つのテーマとして、働き方改革に注目しながら、従業員に対する経営の本気度を分析することは大切だろう。

 

すなわち、

  • 働き方改革を通して、経営のコミットメントはあるのか(将来の成長の源泉として、従業員を大切にしているのか)
  • 従業員を中長期的な視点で育てる気構えはあるのか
  • その制度や仕組みは用意されているのか
  • 働き方改革を進める先に、どんな人材像を見据えているののか など

 

このように、働き方改革は、生産性の向上や従業員の持続的な確保といった日本企業全体が直面している課題への取り組みに他ならない。

ただし、企業による働き方改革が日本全体で広がりが見せているとは言え、その取り組み方や進め方は千差万別だし、企業間で温度差があることは確かだ。

だからこそ、そうした改革には企業経営者の意識が反映している言える。

 

今回、アニュアルレポート(統合報告書)を手掛かりに、伊藤忠の「働き方改革」に着目してみたが、就活や転職において大事な示唆があったのではないだろうか。

 

伊藤忠の人事戦略は、過去から積み上げてきた強みの発揮や、その延長にある成長戦略ともロジカルにつながっており、アニュアルレポートは企業研究における最適な材料になっている。

また別の機会に改めて取り上げてみたい。

 

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